委託費の適正価格

管理会社の利益をどう考える

「うちの管理会社は儲け主義でけしからん」という声を聞くことがありますが、よく考えると企業は利益を上げるのが命題ですから、利益を上げること自体が悪いということにはなりません。むしろ、利益が上げられず赤字続きの会社に業務を委託し、お金の出納も任せることの方が心配です。「いや、儲け過ぎが問題なのだ」といわれそうです。他の管理会社の見積が2割も低かったり、現管理会社が大幅に価格を下げた見積を持ってくると「今までとられ過ぎていた」「過去に払い過ぎていた分を返却して」という話になりがちですが、利益に関する考え方や、いわゆる本社経費をどのくらいみるかは、管理会社によってかなり違います。明確な債務不履行があれば、その分の返却を求めるのは当然でしょうが、それ以外は、自分たちの無関心の結果と考えて今後に生かす方がよいように思います。本社経費の多寡は、普段管理組合に直接関係がないように思われる「災害時の緊急対応」や「新しいサービスの研究」「システム開発」等にどのくらい力を入れているかということとも関係します。そういった管理会杜の特徴をよく知り、自分の管理組合にメリットがあるかどうかで、高い安いを判断し、管理会社を選択していく知恵が必要とされます。

 

委託業務費の減額のしわ寄せは

委託業務費を大幅減額したり、管理会社を変更した場合、本当に契約通り、管理組合のイメージ通りの管理がしてもらえるという保証はありません。実際に新しい管理体制が動き出して、2,3年はきちんと状況をチェックしていく必要があります。マンション管理の現場は管理員や清掃員の方々に支えられています。大幅な減額や安値受注のしわ寄せが下請け会社や現場の管理員、清掃員の方に行ってしまうことがあるのも現実です。

契約上は、同じ週1回の清掃でも、それまで3人で行っていた作業を2人でしなければならなくなったというような話も聞きます。清掃員の方もたいへんですが、これでは、実質同じ仕様といえません。適正な価格という考え方は当然必要ですが、果たして本当に管理の質を落とさずに減額ができたのかどうかは、書面や数字だけでは判断できない部分があります。

また、あまりにも安く受注すると、管理会社は委託業務費の赤字を、修繕工事等の利益で埋め合わせしようと考えがちになるということも、心に置いて頂ければと思います。

委託業務費の見直しを専門家に依頼する場合もあるようですが、減額できた額の何%を成功報酬のような形で一括で支払うという方式はちょっと心配です。できればその後2,3年間の管理会杜の業務執行状況のチェックや指導も含んだ顧問契約のような形として、軌道に乗るまで責任を持ってもらうようにすることをお勧めします。

 

見積書の内容を読み込むと(例えば)

この例えのマンションでの現管理会杜からの委託業務費の見直し回答は下記のようになりました。

※実際は、現行の金額と新金額の提示がありますが、ここでは各々の項目での金額の増減を%で
   表すこととします。

一事務管理業務費                       ⇒   -5%

二管理員業務費

  ①1名のまま休日変更の場合                  ⇒   -5% 

  ②2名交代制に変更の場合                 ⇒  +80%

三清掃業務費

  ⑰清掃の仕様変更をプラスして               ⇒  +10%

四建物・設備管理業務費

  ア エレベー夕ー設備保守点検               ⇒  -15%

  イ 給・排水、電気設備保守点検              ⇒  -10% 

  ウ 消防設備保守点検                   ⇒  -10% 

  工 機械式駐車場保守点検                 ⇒  -15%

  オ 緊急対応業務                     ⇒  -10%

五管理報酬                          ⇒  -10%

 

合計      ①(管理員1名の場合)                   ⇒  -10%

        ②(管理員2名の場合)                 ⇒  +20%

管理員1名の場合、清掃の仕様をアップしても、委託業務費が合計で10%減になりましたので、管理費会計全体で考えると、管理組合が目標としていた「地震保険料」と「専門家への委託費」を予算化しても、現行の管理費会計収入の中で十分収まります。
ただし、②管理員2名にすると、委託業務費と他の固定支出を合わせ管理費会計収入額ぎりぎりとなり、地震保険等新しい支出は難しくなります。
他社の見積は、①管理員1名の場合、現在の委託業務よりK社が18%減、L社が14%減と現管理会社が示した10%減よりさらに低いものでした。K社の提案では、②管理員2名の場合でも、地震保険に加入して、専門家への委託費をとっても現収入でまかなえます。この金額の差では即管理会社変更とはなりません。しかし、管理費増額なしは絶対条件ですから、管理員の増員、地震保険も必要となれば、現管理会社の見積金額では無理なので、安いK社に替えることも現実的な選択肢として入ってきます。

 

管理会社変更の合意形成は慎重に

検討の結果、管理会社を変更する選択をする場合は、減額や管理会社の変更が何のために必要か、管理会社を替えると何が変わるのかをよく話し合い、ぜひ慎重に合意形成してください。

日常管理において継続性や安定性は1つの重要な要素でもあります。管理会社変更にはリスクも伴います。万が一うまく行かなかった場合も、きちんと情報を公開して総会で決めた以上、その責任は管理組合全体で背負うという気構えが必要になります。現行の管理会社に大きな問題はないが、費用を安くするために管理会社を変更するときは、特に注意してください。

管理会社を替えたのに、気に入らないからまた変更、そのうち、どの管理会社も引き受けなくなってしまい、前の管理会社に戻したいというような相談を受けることがあります。そういった事例に共通しているのは、管理会社の変更について、合意形成に時間をとらず、理事長もしく理事会の独断で進んだという傾向です。そうなって困るのは区分所有者の方々です。

 

現管理会社との契約解除には準備も必要

また、現管理会社に契約解除を通知する前には管理組合の準備が必要です。管理会社にも言い分があり簡単に契約解除といかず、こじれる場合もないとはいえません。その場合は、新旧の管理会社同士で引き継ぎがうまくいかないことも起こり得ます。大事な書類の管理を管理会社任せにしている場合は、契約解除の前に、きちんと管理組合が入手するようにしてください。
組合員名簿や竣工図面等を管理組合で管理していますか?過去の総会議事録や原始規約、修繕工事の見積書、会計帳簿等は原本を管理組合で保管していますか?

そして、現管理会社に親近感を持っている組合員との関係で管理組合が割れているようなことはありませんか?管理組合内に対立関係があると、引き継ぎがうまくいかないどころか、新旧管理会社派に分かれて管理組合が訴訟合戦に巻き込まれてしまうような事例もあります。これでは、何のための管理会社変更かわからなくなってしまいます。

心配な要素がある場合は、ぜひ事前にマンション管理士等専門家に相談して、うまく進めて頂きたいと願います。

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